(1)男児・少年(MTF/GD GID)の場合(本人の性自認は女子・女性との主張)
就学前は女子に交じって遊ぶことが多く、スポーツや格闘技の習い事を嫌がることが多い。姉や年上のご近所の女子がいる場合、その年上の女子のグループに後見的に混ぜてもらう形で遊びに加わることが多い。男児・少年(MTF/GD GID)の3分の1程度が七五三・家族行事・お誕生日会等のイベントごとでの男児装・儀礼装にはっきりとした抵抗を示す。
小学校にあがるときにはランドセルや男子の帽子・角ばった黒っぽい携行品の類を嫌がる。小学校入学後はプールやお泊りイベント等での脱衣や上半身裸での競技をはっきりと嫌がる。その後小学校高学年にかけていったんそれらの主張はおさまる傾向にあるが、中学・高校での制服や容儀規定(髪型の規制や振舞いの指導等)に対して強い拒絶を示し、性別の違和感を言葉で表現できない場合には、親にとっては理由のわからない学校行事不参加・不登校・転校したい等の希望を言い出すなどの形で現れる。
部活や課外活動は参加しないことが多いが、部活の中では文化系の部活に入っている例がほとんどで、そのうちの2割ほどが卒業までその部活をやりとげる例がある。好きになる相手は幼少期から小学校低学年までは男子と女子の両方に惹かれることが多く、その後男子にのみに惹かれるようになってその性別指向が集束する。しかしながら、そもそも恋愛や交際、肉体的接触そのものを好まない例も多く、成人しても男女のいずれとも交際・性交に至らない例も非常に多い。
男児・少年(MTF/GD GID)の性別の違和感の発症事例においては、女児・少女の場合と比べて優位に発達障害・学習障害の併発例または発達障害に附随した性別の違和感の自覚の例が多い。男児・少年(MTF/GD GID)の性別の違和感の発症事例において発達障害が併発する場合においては、早い場合は小学校高学年から学業成績不良となり、中高での成績も回復することなく奮わないまま終わることが多い。
一方で、特別に知能が高かったり特別な学業成績のパフォーマンスを示す事例が少ないながらあり、このような場合は中学2年生頃から高校2年生夏頃までには、はっきりと「GID」「性同一性障害」「エストラジオール」「HRTホルモン補充療法・ホルモン注射」「SRS性適合手術・性別適合手術」といったテクニカルタームを口にするようになり、ホルモン注射や手術の希望、女性の服装や扱いでの生活を希望する旨を主張するようになる。このように特別に知能が高かったり特別な学業成績のパフォーマンスを示す事例においては、母親にとってはそれまでは「品行方正な優等生」というものであったわけであるから、性別の違和感を主張しだした後の本人の主張の強さを母親は受入れられず、相互に適応障害に類似した状態となることが多い。さらに、特別に知能が高かったり特別な学業成績のパフォーマンスを示す事例の場合、それに加えて容姿・雰囲気・テクスチャーが優れていることが多く、このような場合は高校生くらいまで周囲にお世話焼きの女子がいたり女子のグループに馴染んでいる例も多いので、母親はこれを「男女交際の萌芽」と捉えてしまい、本人からの性別の違和感の訴えがあったときにショックを受けることが多い。また、上記の性別指向の変遷の亜系として、このように容姿のいい男児・少年の場合は周囲の女子から交際や肉体的接触をリードされることがあり、実験的な交際や性交には至る例もあるものの、その交際は長続きせず、その後は性交ができなくなる例も多い。このパターンの男児・少年(MTF/GD GID)の場合、優秀な大学や大学院を卒業したり、外国の大学に留学するまでになることがしばしば見られる。お問合せ
(2)女児・少女(FTM/GD GID)の場合(本人の性自認は男子・男性との主張)
就学前は男子に交じって遊ぶことが多くリーダー的な役割を果たす。スポーツや格闘技の習い事を好むことが多い。兄や年上のご近所の男子がいる場合、その年上の男子のグループに同等のメンバーとして混ぜてもらう形で遊びに加わることが多い。女児・少女(FTM/GD GID)のほとんどが七五三・家族行事・お誕生日会等のイベントごとでの女児装・儀礼装にはっきりとした抵抗を示す。小学校にあがるときにはランドセルや女子の帽子・かわいい幹事の赤・ピンクっぽい携行品の類を嫌がる。小学校入学後もプールやお泊りイベント等での脱衣や上半身裸での競技に抵抗感無く、10歳を越えても男子の前で裸で着替えるようなことがある。その後小学校高学年になってもそれらの主張はおさまることはほんどなく、中学・高校での女子制服やリボン・スカート等に対して強い拒絶を示し、性別の違和感を言葉で表現できない場合には、親にとっては理由のわからない学校行事不参加・不登校・転校したい等の希望を言い出すなどの形で現れる。部活や課外活動は運動部・スポーツ系に参加して中心メンバーとなることが多く、このような部活を理由としたり部活でのハイパフォーマンスを示すことで特別扱いされたりして、学校でのリボン外しやジャージ生活を周囲に実力で認めさせている例も多い。好きになる相手は幼少期から高校生まで一貫して女子のみに惹かれることが多く、その性別指向は青年期・成人後も継続する。恋愛や交際、肉体的接触には積極的な例が多く、高校生で交際相手(一般女性・シスジェンダー女性)とのキス・初交まで済ませていることがほとんどである。
女児・少女(FTM/GD GID)の性別の違和感の発症事例においては、男児・少年(MTF/GD GID)の場合と比べて発達障害・学習障害の併発例はほとんどないが、男兄弟がいる場合はその男兄弟の誰かに発達障害・知的障害がある場合が多い。発達障害に附随した性別の違和感の自覚の例もあるものの、この場合は、男児・少年(MTF/GD GID)の性別の違和感の発症事例において発達障害が併発する場合と同じく、早い場合は小学校高学年から学業成績不良となり、中高での成績も回復することなく奮わないまま終わり、就職や勤務継続に支障をきたすことが多く、SAD社会不安障害/社交不安障害のような状態を示し、いわゆる引きこもりのような生活状況になることも珍しくない。
一方で、男児・少年(MTF/GD GID)の場合とは異なり、特別に知能が高かったり特別な学業成績のパフォーマンスを示す事例はほとんどなく、大学院まで卒業する例はほとんどない。
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(1)お母様・親御様がご本人様の反対の性自認を理解し、その反対の性での社会適応を応援しようという気持ちがあることが大前提です。GD/GIDの原因は遺伝的素因(fru遺伝子のようなもの)と妊娠中の内分泌バランスの不具合と言われており、「本人のわがまま」であるとか「本人の気持ちの問題」などということではありません。
(2)性別の違和感を持つ子供・GD性別違和/GID性同一性障害の子供の例というのは、これまでが見逃され・無視され・抑圧封殺されてきただけで、実はありふれたものです。「なぜ自分の子供だけが」「兄弟姉妹のうちなぜこの子だけが」などと過度に重大・特別なことと考えないでください。また、そのようなお子様を「異常な子」「病気の子」と思わないでください。GD/GIDのお子様はそのままで正常・健常です。
(3)GID発症例のほとんどのご家庭が母子家庭であり、仮に両親が揃っている家庭であってもお父様は子供の性自認のことや社会適応・診断・治療には興味が無いのが普通です。一人親家庭であったり、父親が子育て参加しなかったりしたとしても、それはGID発症の問題の本質ではありません(家庭環境や養育環境が原因ではありません)。両親揃ったかなり裕福なご家庭や、お父様がご自分で時間を作れる立場にある方の場合でも、お父様が一緒に来院されたり診療経過について問い合わせをしてこられる例はほとんどないのが現実です。
(4)GIDにおける反対の性自認の主張と類似する疾病・障害・症状・傾向(統合失調症・古典的自閉症/カナー症候群・ASD・アスペルガー症候群・ADHD・PDD・SAD社交不安障害/社会不安障害・OCD強迫性障害・セルフイメージの障害(醜形嫌悪・性器形状嫌悪)・性嫌悪障害/性器嫌悪障害・異性装障害・自己女性化愛好症オートガイネフィリア)については当然に考慮して除外鑑別します。GD/GIDを過剰診断することはありません。逆に、何らかの発達障害があったとしても、その発達障害に随伴する性別の違和感といえる程度を越える強烈な反対の性自認・肉体嫌悪・性器嫌悪がある場合には、独立してGD性別違和・GID性同一性障害を診断することが出来ます。お問合せ
(5)内分泌検査・脳神経画像検査(脳波検査/CT/MRI)・遺伝子検査等によって、目に見える形で「GID」を裏付けることができるわけではありません。内分泌検査・脳神経画像検査(脳波検査/CT/MRI)・遺伝子検査等は、「GIDでない」可能性(たとえば副腎異常・甲状腺内分泌異常・てんかん・脳機能障害・脳下垂体異常・寄生虫症・発達障害遺伝子・性分化疾患)を除外するために行うのみです。
(6)GD/GIDは、それを「治す」すなわち生来の性別に合った心理状態・気持ちに「戻す」というような治療法はありません。女子っぽいMTFのお子様に対して、「男性ホルモンをばんばん注射したら男に戻りませんか?」とおっしゃってこられた親御さまもいらっしゃいますが、そのようなことはできません(その逆もしかり)。また、「催眠術」・「コーチング」・「自律訓練法」・「認知療法」・「箱庭療法」のようなものをぼんやりと想像してGD/GIDの「治療」をイメージしてこられる親御様もまれにいらっしゃいますが、もちろんそういうことも「治療法」とはなりえません。
(7)ご本人様の父親嫌悪がある場合の古典的エディプスコンプレックス的解釈や、友人関係や男女交際でのフラストレーションにかかる反動形成的解釈をなさる親御様もいらっしゃいますが、ご指摘があればそのような点からも検討します(古典的精神分析・TA交流分析のような分析と解釈も行います)が、GIDの基本は幼少期発症ですので、そのようなことはほとんど関係ありません。なお、フラストレーション要因・ストレス防衛機制・PTSD(いじめ・転校疎外体験等)に原因を求める解釈をなさる親御様から要望がある場合には、ラザルス式SCI/EAS、EQS、P-EGエゴグラム、PCL-S、IES-Rによって精査を行います。
(8)不登校・引きこもりの履歴や傾向がある場合には、それらの不登校や引きこもりと性別の違和感・ジェンダーの問題を関連付けて考えられる親御様もいらっしゃいますが、それもほとんど関係ありません。不登校についてはDSM5 社会的コミュニケーション障害、ASD/ADHDの傾向、学習障害、ソリタリー性格による場合がほとんどです。
(9)GD/GIDにおける反対の性自認は一生継続するのが普通であり、身体の治療と反対の性でのRLE実生活の開始を先延ばしにすることは、ご本人様の現在とその後のQOL充実並びに学業キャリア及び職業キャリアの達成の観点からも望ましくありません。
(10)GD/GIDの性別移行は、身体的側面からも社会的側面からも、早期移行の着手と開始が、完成度の高い容姿と高い社会適応性の確保につながります。特に、12歳から17歳までの思春期の身体は半年単位でも目に見えて劇的に変化するのですから、「本人があと○○年我慢すれば」であるとか、「学校や地域にご迷惑をかけるのは申し訳ない」等という考え方は全くのナンセンスです。ご本人様が一生のうちで最も苦しい時期が、小学校高学年・中学生・高校生の時期の「いま」なのです。治療や社会的性別移行をあと何年延ばしたからといって、「生来の性別に落ち着く」等ということはGD/GIDではまずありません(発達障害が基礎疾患にある場合の性別の違和感の場合は、生来の性別に落ち着くこともあります)。
※カナダでは、親が子供の性自認を認めない場合には、The Supporting Children, Youth and Families Act (児童・青少年・家族環境支援法)によって政府に介入権限が付与されており、このような子供の性自認を認めない親の作為・不作為を「積極的虐待」であるとして、司法機関は親の逮捕・政府による児童監護・親の養育権剥奪をすることができることとされています。
https://www.rt.com/news/391164-ontario-gender-identity-children/
New Ontario law allows govt to seize children if parents oppose their ‘gender identity’
下記は、学校での反対の性での通学・学校生活を望みかつホルモン治療の速やかな開始を希望するかたの場合で、さらに発達障害等の懸念がない場合のプロセスの1例です。
(1)初診
初診においでいただきますが、初診は原則としてご本人様のみでお話しを伺います。GD/GIDの問題は、その問題の宿命として、性と男女交際の問題を含みますので、初診でお話しを伺うに際しては、お子様のプライバシーを守る必要があります。初診ではお子様から率直な気持ちとものごとの感じ方・体験を伺う必要があるため、それゆえの配慮です。
(2)初診後面談又は初診後電話面談
初診後はお母様と面談または電話面談でその日の診察での所見と今後の学校生活に関する対処について打ち合わせをします。
(3)セカンドオピニオン
初診後は、日を改めてセカンドオピニオンを受けに行っていただきます。学校側への配慮の申入れや反対の性別でのRLE実生活開始の申入れを行い、そのための書類を作成するには、最低限で性別違和についてのセカンドオピニオンが必要です。また同時に、本人の意志の強さ・精神状態の安定性を考慮し、反対の性別でのRLE実生活を開始することを相当とするセカンドオピニオンも必要となります。
(4)学校側への申入れサポート・書類作成
厚生労働省による通達により、公立学校は性自認に対するしかるべき配慮をすることが必要とされています。そのため、公立学校は「反対の性での通学・登校など認めない」等ということはできません。当院では、厚生労働省の通達発布番号と通達文書を添えて、お子様ご本人様が希望される内容を個別に聞き取り、その聞き取った内容をもとにして(ただし、サポートできることとできないことがあります)、学校長・学年主任・学校巡回カウンセラーを名宛人として、書類作成(「配慮の依頼書」「診療情報提供書」等)を行います。
※上級庁に対する申入れ・異議申立て
学校側が反対したりしかるべき対応を怠ったりする場合には市教委・県教委・教育長・市長・県知事に対し、上級庁としての職権発動の申入れと異議申立てを行います。
(5)ホルモン治療・HRTホルモン補充療法開始
内分泌検査・生化学検査・泌尿器婦人科検査を速やかに済ませ、ホルモン治療・HRTホルモン補充療法に移行します。DSM5では、このホルモン治療の開始をもって性別移行の始期とされています。
(6)性自認の経過観察
その後の性自認と性別指向について、性別違和の典型的な経緯を示しているか否かについて定期的な経過観察を行うとともに、適宜において内分泌・内科的定期検査を行って健康状態をモニターしていきます。必要に応じて、追加の脳波検査・CT/MRI等の脳神経画像検査・性格検査/人格検査等の心理検査・WAISⅢ等の発達検査も行っていきます。