保険診断がついていない段階のFTM治療のあり方
大学病院での保険診断の取得のプロセスを並行して進めながら、初診後から保険診断取得までの経過治療として、「子宮・卵巣への影響が少なく、肉体の筋肉・骨格を男性的なフォルムに仕上げていくような成分・薬剤による内服・注射の治療」を進めていくわけですが、その場合の選択肢としてどのようなものがあるかをご紹介します。
1.男性的な肉体のフォルムを作っていく方向性での治療
(1)アンドロゲン最終代謝物の内服
アンドロゲンが体内で分泌又は外的に投与されるかしたとして、アンドロゲンは次々に代謝されていきます。その際にこのアンドロゲンは男性ホルモンになる(そのうちの一部は女性ホルモンにもなります)わけですが、このような性ホルモンとしての活性が除去され、アンドロゲン最終代謝物 の形になると、筋肉増強・基礎代謝促進の作用だけが残ります。すなわち、子宮・卵巣に対する男性ホルモンとしての作用はなく、肉体を男性的なフォルムにする作用だけを得ることができます。この場合、自主的に筋力トレーニングを取り入れて継続していただき、お好きなプロテインの摂取を併用していただくことを強くお勧めします。
(2)成長ホルモンフラグメントタンパク、IGF-1、MGF等の注射
筋力トレーニングをご自身で取り入れて継続していただくことが前提ですが、スポーツ選手・アスリートが使う筋肉や骨格を増幅増強するたんぱく質、グロースファクター成長因子サイトカインを使用することが考えられます。
(3)ミオスタチン抑制治療
体内では、常に筋肉を作ろうという働きがあるのですが、その働きをミオスタチンという分泌物が邪魔をしています。そこで、このミオスタチンの分泌機能を阻害するたんぱく質を投与して筋肉増強を図ることで、男性的なフォルムの獲得を目指します。
(4)成長ホルモン分泌アミノ酸の内服
成長ホルモンの分泌機能の内分泌検査において、一時的に自身の成長ホルモン分泌を起こさせる試薬を投与する検査がありますが、その際に使用する試薬が、成長ホルモン分泌アミノ酸です。このアミノ酸を定期的に内服すると、常時体内で成長ホルモン分泌の命令が出ている状態となりますので、筋肉増強の方向に作用します。やはり、自主的な筋力トレーニングの実施継続が強く推奨されます。
(5)男性ホルモン作用がほとんどない蛋白同化ステロイドの注射
蛋白同化ステロイド剤ではありますが、標準のプリモボランよりもさらに男性ホルモン作用を小さくしたものがあります。筋肉・骨格の増強増大に強く働く一方で、エナルモンやプリモボランに比べて、子宮・卵巣への干渉・影響はかなり小さいです。
2.月経のコントロール
生殖能力を不可逆的に放棄することまでは思い切れないが、月経があることは受入れられないないし著しく苦痛であるという方に向けた月経コントロールの方法論です。
(1)偽閉経療法
子宮・卵巣に直接作用するのではなく、脳の下垂体に働きかけて、月経を起こさせる信号を差し止めるように命令するGnRという物質による治療です。「子宮・卵巣の機能は当面保持しておきたいが、さしあたって月経は止めておきたい」という方向けの治療です。
(2)避妊ピル内服による月経回避
避妊ピルにプロゲステロン(女性ホルモンの1種)が含まれていることを利用した、月経を回避する治療法です。ただし、この場合、FTMとして女性ホルモンを忌避しているはずなのに、結果として女性ホルモンを使用した治療をすることになります。